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放蕩記

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俵屋旅館・旅行記

Category - 俵屋・京都
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日本最高との噂の旅館に宿泊するため、お盆休み、暑い盛りの京都を訪れた。多少予備知識のある私と、全く無い家内の二人で。結果、二人とも同じ感想を持った。最高の宿、最高の食事であると。予備知識の無い家内の方がより驚きが大きかったようであるが。

 俵屋は全18室。部屋毎に違った風景、違った室礼があり、それぞれに最高の設えが目指されていると聞く。館内の至る所、そして各部屋には芸術品とも言えるフィン・ユールの椅子や値段の付けられない高価な美術品がさりげなく置かれている。それらはすべて80才を越える女性でありながら、まだ現役で活躍されている当主、佐藤 年(さとう とし)さんのセンスのたまものだ。私たちが最も感銘を受けたのは実にこの当主のセンスであった。

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喧噪につつまれた京都市のど真ん中に日本を代表する旅館が位置する意外性。狭い路地をはさんで左の柊屋と右の俵屋が対峙する。むしろ平凡な日本家屋のような俵屋の玄関。しかし小さな入り口をくぐるとそこには別世界が広がる。絢爛豪華な世界ではない。しかし明らかに、利休が提唱した茶室のようなもう一つの世界だ。行き先が俵屋だとタクシーの運転手の態度も違うような気がする。

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チェックインは14時、チェックアウトは11時。初めて訪れる私たちを、まるで懐かしい馴染みの客のようにもてなすスタッフたち。水を打たれた清々しい玄関。

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玄関を上がると目に飛び込んでくる坪庭は俵屋の顔。季節毎の草花が生けられる。

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館内のあちらこちらに美術品が展示されている。ここはラウンジ。

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ホオズキの朱色が鮮やか。

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「どうぞどうぞ奥が涼しくなっておりますから」と、ライブラリへと案内される。入り口は、茶室よろしく「にじり口」という小さい扉になっている。今になって振り返ると、その構造はまさに俵屋という旅館の比喩となっているようだ。

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座った高さで庭を眺める。俵屋はどこに居ても、目線に配慮した空間デザインになっている。

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これは夜のライブラリ。壁紙を透かして光が入るデザインは宿泊する部屋にも使われている。チェックインまで時間があるので、ガイド付きタクシーをチャーターし、3時間ほど京都のお寺巡りを楽しんだ。それはそれで素敵な時間だったがこれはまた別の話。

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今回宿泊する「暁翠(ぎょうすい)」という部屋。唯一の和洋室。廊下の突き当たりに引き戸があり、そこから坪庭を臨む廊下があり、その先に部屋のドアがあるという「離れ」のようなエントランスになっている。

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エントランスの坪庭。「つくばい」がある。この場所に腰をかけてみると、玄関からの風が吹き抜け、猛暑の京都とは思えない涼しさがあった。坪庭は寝室と浴室の窓にも面している。

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エントランスの壁には90cmほどの「冨田潤(国際的な染織作家)」のテキスタイル作品が。俵屋のそこかしこで冨田潤の作品に触れることができるし、オリジナルショップで購入もできる。

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眺めが素晴らしい。磨き抜かれたガラスを通して見る庭の景色は、まるで一枚の屏風の絵のようだ。机は掘りごたつになっている。こたつの底は木製のスノコ状で素足に心地良く、また清潔感がある。

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ウェルカムティーと共にまずは名物わらび餅が供される。竹筒に入ったこの本わらび餅は、たっぷり食べ応えがあり、すっきりと溶けていく。上品で非常に美味しい。付属のカフェでは2,000円で提供されている。一口2,000円のわらび餅…値段もまたびっくりだが。

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暁翠の寝室は俵屋唯一ベッドを採用。壁はすべて白い和紙で覆われている。当主が「繭玉の中で眠る」ことをイメージしてデザインした。ベッドの高さは低く、日本風の低い目線を意識している。布団の素材へのこだわりも強く、敷き布団は一万個の繭から作られている。

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ベッドルームの壁はガラスを隔てて坪庭に開かれている。2重ガラスの間に電動で遮光カーテンを下ろすことができる。

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一つ一つの部屋は当主が自筆でデザインしたのだという過程が分かる冊子。実に味のある絵と書である。聞くところによれば建築家になりたかったのだという。

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庭を眺めるための、和室と洋室の間の部屋。奥のデスクではインターネットを無料接続できる。

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座椅子に座って庭を眺めると一枚の絵のようだ。毎日磨き抜かれたガラスは一点の曇りもなく、ガラスがあることを意識させない。窓がなく外と内との境のない古い日本の家屋を意識しながらも、窓のない生活が不可能な現代社会に適合させたデザインである。青い絨毯の部分は床暖房になっている。俵屋オリジナルデザインのクッションの素材感と発色が素晴らしく、帰りにショップでお土産に購入した。こういった一つ一つの備品へのセンスとこだわりが並ではない。

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椅子は北欧のデザイナー、フィン・ユールの高価な椅子の足をカットして目線を低くしたもの。調べてみたところ世界で28脚しか存在しない幻の椅子のようだ。肘掛けの木の部分の手触りが気持ちよく、撫でているだけで癒される。俵屋にはフィン・ユールの椅子が多数備えられている。いずれも30年以上も前に当主が購入したとのこと。卓越したセンスである。

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濡れ縁に出て、庭から部屋を見る。それにしても京都市のど真ん中とは思えないほどの静謐感。どうして音があまり入ってこないのか不明。

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手洗いは現代的。オリジナルアメニティもある。トイレもTOTOウォシュレット。

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特に石鹸にはこだわったようで、当主と花王の長年にわたる試行錯誤の共作らしい。

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浴室の床の石は滑らず足に心地良い。特筆すべきは木製の浴槽で、1日経ってもほとんど温度が下がっていない保温力には驚かされた。また木の成分だろうか、お湯が柔らかく感じられる。

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館内と、各部屋の今月の室礼(しつらい)の品が解説されている。最上段にはこの部屋の掛け軸が解説されている。

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狩野探幽の掛け軸。

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和室と洋室の間には謎の置物が無造作に置かれている。壁に掛かっているのは何かの出土品のよう。棚に置かれているのは土偶のミニチュアのような作品だが、手にとって裏返してみても作者名などは見当たらない。

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後ほど調べてみて分かったのだが、実は、本物の縄文土偶であった。普通なら博物館か、そうでなくてもガラスの向こうか、または盗まれないように少なくとも棚に固定してあるはず。そうしないところが(客への信頼感も含めて)俵屋クオリティなのであろう。それに関して一つ気になることがあった。部屋に置かれていた雑誌に、俵屋がレポートされているものがあったのだが、そのページが切り取られていたのだ。スタッフに報告したところ、恐縮したスタッフが新しい雑誌を持ってきてくれた。日本人か外国人かは分からないが、このようなことをする輩が宿泊するところではないと思う。

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これも室礼の品の一つ。蓋をあけてみると硯であった。きっと高価なものであろう。

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ここは当主の亡夫、アーネスト・サトウ氏の書斎を再現した部屋。宿泊客が自由に観覧し、セルフサービスでハーブティーなど頂ける。亡夫はNY近代美術館に作品が収蔵されている写真家で京都市立芸術大学教授だった人である。いかにも当主にお似合いの夫に思える。聞けばアーネスト氏が京都に取材に来た折に知り合ったのだとのこと。二人で芸術的センスを高め合ったのだろう。

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アーネスト・サトウの作品、Three Birds。

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この部屋に置かれている椅子もフィン・ユールのもののようで座り心地がよい。素敵な木を使った万華鏡が置かれていた。

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センスの良いデイ・ベッド。布地は冨田潤。これはオリジナルショップで購入できる。

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彫刻家、流政之の作品。

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これも日本を代表する彫刻家、宮脇愛子の作品「Megu」。宮脇の作品は版画が宿泊した部屋にもあった。という具合にまるで美術館である。

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館内の壁に何気なく飾られていた「わけいってもわけいっても青い山」の句。これは山頭火の直筆である。

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徒歩1分の付属のカフェにはチェックアウト後に立ち寄った。

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ここにもフィン・ユールの家具が。

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中庭の苔を見ながら落ち着ける空間。

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部屋にも置かれているオリジナルのコップ。耳のような出っ張りに指がひっかかって滑らないというデザイン。使い勝手が良く見た目にもユーモラス。一つ一つがさすがである。

 指定した時刻の数分前から夕餉の支度が始まる。15年目という女中さん(かこさんという名前だった)の振る舞いも見事。挨拶、お辞儀、間の取り方など、何かの流派の型を見ているようだ。それでいてよそよそしくなく、朗らかで、謙遜した態度なのだ。

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俵屋に勤めて30年、料理長、黒川修功による手書きの献立表が置かれる。では料理を順番に見ていこう。

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先附)まずは金柑の食前酒。先附の皿の品々はどれも美味しいが、特に写真奥にちらりと見える「鱧の子寄せ」にはビックリする。とろとろの小さな魚卵を固め、ほんのり生姜風味。左の茶碗は、鮑をすりおろしてとろろと混ぜたもの。素晴らしい。

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向附)茂魚(アコウ)焼目造り、と鱧(ハモ)炙り。炙りによる香ばしさが絶品。鰈(カレイ)の薄造りは、写真では大きく見えるが直径5cmぐらいの小さい皿に、可憐に盛りつけられている。

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煮物)鱧あられ煮のお吸い物は、薄すぎず濃すぎずちょうどいい出汁。

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焼物)鮎(アユ)の笹焼き。鱚(キス)の中に雲丹(ウニ)を入れた珍しい一品。冬瓜のそぼろ味噌掛けはとろけるような冬瓜。

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御凌ぎ)海老そうめん。茄子煮浸し、オクラ。素麺と言っても海老を練り込んで細く切ったもの。美味しい。

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蒸し物)穴子、湯波、椎茸などをタレに漬けて頂く。

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強肴)太刀魚の土佐酢掛け。

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止椀、赤出し)米は京都の山間の専用の農家から俵屋の為だけに毎日精米して届けられる無農薬米。不味かろう筈もない。

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水物)桃の甲州煮。
小さい米俵の形をした和三盆(砂糖菓子)。

 夕食は以上。どれも驚くほど美味しい。量も控え目で心地良い満腹感。

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朝食の開始はオレンジジュースやヨーグルトなど。和食か洋食を選択し、和食では主菜の魚を選択する。湯豆腐とともに。朝食も素材の味が良く、豪華すぎず、適量であった。

 俵屋は衣食住が最高レベルで融合していると思う。衣は、寝具の素材や掘りごたつの底の木、撫でるだけで癒されるような椅子の木、クッションや絨毯のテキスタイル、オリジナルの石鹸など肌に直接触れるものと、広い意味では心に触れるもの、つまりスタッフの対応の快適さを示すものとして。食はレポートした通り。住は部屋の眺望や調度品、居心地の良さのことである。

 宿泊料は1泊2食付きで1人(1部屋ではない)42,000〜80,000円代らしい。「暁翠庵」は1人84,500円なので、最も高い部屋かもしれない。高いことは間違いないが、極めて高いかどうかは異論があるだろう。ホテルのスイートに宿泊し、有名な料亭で食事をするのに匹敵する料金である。おそらく私たちは、それよりははるかに満足しただろう。

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