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放蕩記

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カンテサンス / 頂点に立つ者の手

Category - フレンチ
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日に東京出張しなければならなくなって真っ先に思いついたのが有名レストランでディナーが取れるということ。休前日なら用がなくても東京に行くこともできるが平日は理由がなければ不可能。しかし休前日の有名レストランの予約は極めて困難であろう。そういうわけで、2ヶ月前にカンテサンスに電話をかけまくり木曜日のディナーを押さえた(妻が)。

レストランは劇場だ。ただし観客参加型の。私たちは客であると同時に画を完成させる重要なピースの一つとなる。高級レストランならなおさらのこと。私たちは料理やスタッフや店の中を見るが、店も私たちを見る。当然のことだ。ドレスコードもそういったことの一つの表れである。カンテサンスはエレガントカジュアルを推奨しているので私たちも小綺麗な格好をしていくのだった。

ホテルからタクシーに乗り「カンテサンス」と言っても通じないので、北品川のガーデンシティ品川御殿山を目指す。しかし同所は新しいため古いナビではよく分からない。近くで降ろされて歩くことにする。ガーデンシティのガードマンが居たので「カンテサンス」を尋ねるが知らない。つまりこういうことだ。ミシュランの星を取ったレストランなんてものは、大部分の人には何の関心もないということ。きっと「マクドナルドはどこ?」って聞けばすぐに答えが返ってくるのだろう。まだテナントも入っていない出来たてのガーデンシティの中を歩きつつ、妙に納得しながらカンテに辿り着く。

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センスの良い木の扉を開けるとウェイティングルーム。すでに何人かのお客が座っている。奇抜なデコレートライトとキノコをちりばめた机。食事の前のお手洗いを促された後に、案内された席に座る。壁には横長の鏡。座った位置からは立ち位置のスタッフの動きが見えるが隣の人は見えない。上手い具合に配置された鏡だと感心した。木目を基調としてシンプルで高級感のある内装。BGMは無い。料理に集中するための演出であろう。客の話し声が心地良い通奏低音となって流れる。メニューは2ページからなる白板。1ページ目には岸田シェフの考える料理における重要な要素は「プロデュイ(素材)」と「キュイソン(火入れ)」と「アセゾネ(味付け)」であると書かれている。次のページは白紙。その日のシェフおまかせのコース1種類しかないためだ。

私はシャンパン(後ほど赤ワイン)、アルコールの飲めない家内はシャテルドンで乾杯し全12品の料理がスタートする。一品ずつの量は多くないので小食の人でも安心して食べられるだろう。料理哲学に謳われているように、どの品も火入れなどで手の込んだ仕事がなされている。味付けは非常に繊細で、高級和食懐石にも通じるものがある。だからインパクトの強い大味を好む御仁にはぼんやりした料理と感じられるかもしれない。私には好みの味であった。ホールスタッフの説明も分かりやすく、つかず離れずの丁度良い間合いで入ってくる接客はスマートだ。隣の席との間隔も狭くないので他の客が気になることもない。この店では個室以外で料理の写真を撮ることはNGであるという話を聞いたことがある。

1) ビスケットの上に薄くスライスした原木椎茸を乗せボルチーニパウダーをまぶしたもの
2) 牛すじ煮込みのスープ、アンティーヴとタマネギ入り
3) 塩とオリーブオイルが主役の山羊乳のババロア、これはカンテサンスのスペシャリテ
4) フォアグラとセロリやナッツのサラダ
5) サクレにウニとマッシュルームが乗ったもの。通常のサクレはその中に食材を入れるが、ウニとマッシュルームとサクレではそれぞれ最適な火入れが違うのでこのような形になったとの説明に納得
6) イカとナスの料理
7) マナガツオに牛蒡のソース、この後肉料理となるが量はいかがかとの質問があり小食の家内が少し減らしてくれるよう頼む
8) 鳩とズッキーニ、長芋、ちなみに出されていたパンは酵母の酸味が感じられるおいしいもの、この後デザートが4品続く
9) 熟成させた栗の甘みだけで作ったアイスクリーム
10) モロッコのパスタで包んだコロッケのように見えるマスカルポーネ、ウイスキーソース
11) 焼きたてのチーズケーキ
12) メレンゲのアイスクリームに塩をスプレーしたもの
13) コーヒー紅茶に小菓子

奇しくも2日前にミシュラン東京2015年の発表があったばかりで、当然のことながらカンテサンスは見事8年連続三つ星の栄誉に輝いていたのだった。東京で三つ星のフレンチはまたもガストロノミー・ジョエル・ロブションとカンテサンスだけ。岸田シェフおよびスタッフの方々おめでとう。しかし頂点に立つ者はきっと、それがまた喜びであるかもしれないプレッシャーを感じ続けるのであろう。食事を終えて店を出ようとする私たちを見送るために出てきてくれたシェフの顔には、その日の仕事を終えた安堵と疲労とが現れていた。しかし握手をしたその手は、繊細なお顔から想像するよりも大きく、そして自信に溢れた力強さを感じさせるものであった。

Category - フレンチ

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