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放蕩記

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小谷元彦展「幽体の知覚」 / 森美術館

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美術館の企画力は群を抜いています。私にとってはその展覧会を見るためだけに東京を往復する価値があるほどです。特に今回の小谷元彦の展覧会「幽体の知覚」は見逃す訳にはいきませんでした。森美術館の協力で静岡県立美術館、高松市美術館、熊本市現代美術館を巡回するのでそちら方面のかたもお見逃しなく。

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この展覧会の題名「幽体の知覚」は小谷の代表作「Phantom Limb」に基づいて名付けられました。Phantom Limb=幻肢の知覚とは、例えば怪我などで腕や足を切断された人が、まだそこに手や足があるかのように痛みや痒みを感じるという現象です。このように目に見えないもの、あるかないか分からないものを具象化しようとするのが小谷作品に共通してみられるテーマです。

「Phantom Limb」は小谷のデビュー間もない1997年の作品です。私は2005年に金沢21世紀美術館のマシューバーニー展を観に行った折り、併設展で偶然この作品を見ることができました。その瞬間に私は小谷元彦のファンになっていました。それは大きな5枚の連続写真が並んだものです。真っ白な背景に横たわる(あるいは浮遊する)真っ白なワンピースを着たあどけない少女。スカートの中が見えそうで見えない。目を閉じたり開いたり、顔をかたむけたり、けだるいアンニュイな表情は夢を見ているのか、絶望しているのか、あるいは恍惚としているのかもしれません。赤く染まった掌は血液でしょうか? いや違います。それは握りつぶされたラズベリー。両腕を広げ十字架につけられたようなポーズからも明らかなように、それはまぎれもなく聖痕へのオマージュでしょう。少女が大人になった時に失ったもの(Phantom)とは一体なんだったのでしょう。握りつぶしたラズベリーの感触でしょうか。イノセントを象徴する純白の体に、滲みだす血の記憶でしょうか。つかみたくてもつかめない、その幻肢のうずきがこの作品から感じられるのです。てな理屈は抜きにして、とりあえずスタイリッシュでカッコいい!

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この作品を皮切りに、2010年までの小谷の様々な作品を集めた本展は圧巻です。作品の数も多いのでいちいち解説できませんが、とにかく凄いのは、一つ一つの作品がまったく別の作者が作ったと言ってもよいほどオリジナリティに溢れているのです。そして、非常に細かく技術と根気がいるであろう作品も多く、思いつきだけではとても素人にまねはできません。ピカソもゴッホも基礎がしっかりできているからこそ偉大な作品を残せたのであって、小谷もまた基本的な技術力がずばぬけているのだと思います。それプラス独創的なアイデアがあるわけです。

一つ一つが独創的で素材も見た目も異なるのですが、テーマには何か共通した雰囲気を感じます。それが先に述べた目に見えないものを実体化しようとする「幽体の知覚」なのでしょう。それは必ずしも心地よいものではありません。エロティックであったり、恐怖や痛みや死を感じさせたりして不快に感じる人もいるでしょう。しかしそこに悪意は感じられません。それはあたかも自然現象が時として美しく時として残酷であるのに似ています。ニーチェ風に言うならば、この世の根源的な部分に近づくと、その彼岸では善と悪の境界線がなくなり美だけが存在しているのです。

小谷元彦公式ホームページはこちら

価 格:入館料(招待券にて無料)、図録 2800円(ファンなら必携でしょう)
満足度:星4

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