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放蕩記

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あさば・旅行記

Category - あさば・修善寺
船池能舞台

の5月。観光客と路面店が接近する細い路地をタクシーは器用にすり抜けてゆく。すると民家の間に重厚な門が唐突に出現した。傘を手に駆け寄る番頭さん。着物姿の若女将が玄関で出迎える。広々とした気持ちのよい玄関は非日常への入り口だ。目の前に広がる池と能舞台。少し早い到着だが、名前を名乗っただけで、チェックインなどというものはない。「ようこそお待ちしておりました。さあさあどうぞこちらに。お部屋の準備ができるまでサロンでおくつろぎください」初めての来訪なのに行きつけの店に帰ってきたような気持ちになるから不思議だ。サロンでお茶とドライフルーツの梅干しを頂きながら、池と能舞台の景色を眺める。

 伊豆修善寺の「あさば」は世界的にも有名な日本を代表する旅館の一つだ。創業1675年、代々浅羽家によって受け継がれてきた。あさばの代名詞と言えば能舞台で、年に数回能や狂言で使用されている。600坪の池を囲むように旅館があり、池の対岸に能舞台が、その向こうは森林が広がる。修善寺温泉街の一角にありながら、ひとたび門をくぐると、喧噪とは無縁の静謐な別世界が広がる。この完成された幽玄の美は見事というほかない。到着した日は雨、翌日は晴れだったがどちらもその美しさに変わりはなかった。

門
歴史を感じさせる重厚な門と玄関。暖簾にはこの季節を特徴づける菖蒲が掛けられていた。

玄関
広々とした玄関。簡素なフロントデスク。

ロビー
ロビーからは能舞台の風景が広がる。「Lee Ufan」の絵が展示されている。十代目当主の浅羽一秀さんは現代美術愛好家のようで、サロンの入り口には次の「宮島達男」の作品が展示されていた。350年続く伝統ある純和風の旅館に飾られる現代美術という構図がモダンだ。

宮島達男
一目でそれと分かるデジタルカウンターを使用した宮島達男の作品。

売店
ロビーにある売店。レジはあるが従業員は居ない。このように客を全く警戒しない(信用しきっている)という雰囲気は至る所で感じられる。それは旅館にとっては少しのリスクで、客が感じる心地よさは大きなリターンとなる。それは全17室という少ない客を扱い、客層自体に高級旅館というバイアスがかかっているから可能なことであろう。

能舞台
トレードマークの能舞台。

 時は2011年5月のゴールデンウィーク。大震災の影響でどうしようか迷ったが予約通りでかけることにした。名古屋から新幹線で三島まで。そこから地下道を通って伊豆箱根鉄道駅へ。片道500円で終点修善寺までは35分。そこからタクシーで7分ほどだ。今回初めての訪問で、JTBのインターネット予約を利用した。JTBのサイトでは予約できる部屋が限られており、常連さんは直接電話などして部屋指定で予約しているのだろう。部屋数は17で、それぞれ間取りと大きさ、内風呂の有る無し、眺望などが異なる。料理は同一である。部屋数の割に多くの従業員の方がいるようだ。そのためきめ細やかなサービスができるのだろう。どの従業員も親切で感じが良い。内風呂の他に、野天風呂、2つの家族風呂、男湯、女湯の5つの共同浴場がある。内風呂も含めてすべて源泉掛け流しである。

 我々の部屋は離れにある「天鼓」。平屋の離れなので2階に別の部屋がある本館と比べて静かである。10畳と8畳の和室と玄関、総檜作りで半露天の内風呂、洗面所、トイレがある。眺望は庭で、能舞台が見えないのが残念なところ。しかし滝や川の音が小さいので、鶯のさえずりがよく聞こえる。

 部屋に案内され、出されたのは名物あさば饅頭。皮がしっとりしておいしい。夕食は楽しみだが、割と小食な我々。早速仲居さんに食事の量についての心配を打ち明け、説明を聞いた後に分量を減らさない事に決めた。結果は、品数は多いものの分量は丁度満腹になる程度で問題なかった。部屋を案内した仲居さんにお土産のお菓子と心付け(旅館の仲居さんに渡すことがあるチップ)を差し出すそぶりすると、担当の者が後ほど挨拶に伺うと告げてその仲居さんは下がった。後ほど担当の仲居さんが挨拶に来たので件の物を渡した。心付けについてはいろいろ意見があるようで、まあ確かに多少面倒ではあるが新札をポチ袋に入れて渡した。一人の宿泊代の一割程度かという参考意見もあるようで、その程度なら、それなりの高級旅館なら出す方がスマートだろうと思う。

部屋玄関
本館の長い廊下の突き当たりに「この先は客室天鼓でございます」と書かれた札がありその先に部屋の玄関がある。

部屋次の間
踏込にはミニバーがあり、その先に8畳の次の間、

部屋主室
そして10畳の主室がある。

部屋洗面所
洗面所は天窓から光が降り注ぎ明るい。バスアメニティはブルガリ。石鹸は「ルレ・エ・シャトー」メンバーのマークが付いたあさばオリジナル。

部屋風呂1
総檜造り、半露天、源泉掛け流しの内風呂。

部屋風呂3
浴室の坪庭と天窓から見える新緑がまぶしい。

部屋浴衣
着心地の良い浴衣とパジャマ。

 6時頃から開始して約2時間半のディナー。担当の仲居さんが一品ずつ運んでくる。部屋で食べる心地よさは格別だ。はじめにモエのシャンパンを注文。途中で静岡は掛川の大吟醸「磯自慢」を注文。まず5月ならではの菖蒲をつけた食前酒が振る舞われた。ちなみに菖蒲は玄関の暖簾にも掛けられ、温泉に浮かべられていた。食事は以下の通り。どれも塩加減が丁度良く、出汁がとても美味しい。お箸はしっとりした濡れ箸(御飯が付くのを防ぐとともに、箸の木の香りを楽しむため)である。仲居さんはとても感じが良い人で、どんな質問にも即答できる。教育が行き届いているのだろう。

献立 空豆すり流し
1)「空豆すり流し」丁度良い塩分。

竹の子菜のり揚げ 薫風盛肴
2)「竹の子菜のり揚げ」菜のりは伊豆の名産。ごま油で揚げてある。竹の子より海苔の味がやや勝ってしまう。
3)「薫風盛肴」刺身の盛り合わせ。卵黄をサーモンで巻いたものなど美味しい。

純銀鍋 田芹太刀魚吸鍋
4)「田芹太刀魚吸鍋」仲居さんが純銀製の鍋で茹でて供する。この鍋は売店で45万円で買う事ができる。とても美味しい。

鯛赤いか造り 鱒木の芽焼
5)「鯛赤いか造り」
6)「鱒木の芽焼」

新じゃが万頭 伊勢えび唐揚げ
7)「新じゃが万頭」ポテトの万頭。結局出汁が美味いので何でも美味い。
8)「伊勢えび唐揚」箸では身を取りにくい。

大吟醸「磯自慢」 蛤蕗生姜酢
大吟醸「磯自慢」
9)「蛤蕗生姜酢」

穴子黒米ずし1 穴子黒米ずし2
10)「穴子黒米ずし」あさば名物。黒米は修善寺の名産。穴子寿司が美味しい寿司店と同レベル。

新玉葱水芥子黒豚煮 鯵ちらし御飯
11)「新玉葱水芥子黒豚煮」肉料理はこれだけだったが肉料理はなくても充分。
12)「鯵ちらし御飯」

ブラマンジェ シャーベット
13)「ブラマンジェ」デザートは3種類から選択。普通に美味しい。
14)「シャーベット」2つ目のデザート。

 食後にまたひと風呂浴びる。あさばは全17室しかなく、さらにその11室には内風呂があるので、5つの共同浴場はうまく利用すればほぼ貸し切り状態で楽しめる。風呂上がりにはライトアップされた能舞台を見ながらサロンでカクテルを飲んだ。そしてふかふかの布団で熟睡。

家族風呂1 家族風呂南天星
家族風呂は浴槽が楕円の「南天星」と長方形の「卯の花湯」の二つ。空いていれば内側から鍵を掛けて使用する。

男湯1

男湯3 男湯2
男湯は扇形。女湯は円形の浴槽。

野天風呂2

野天風呂1 野天風呂3
野天風呂は時間によって男女が分かれる。藤棚のある池に面している。適温で気持ちがよい。野天風呂は洗剤の使用ができず浸かるだけである。

夜の能舞台、サギ
ライトアップされた夜の能舞台。川魚を目当てにサギが訪れる。

部屋布団
ふかふかのマットレス。枕は羽根と蕎麦殻が選べる。

 翌日は朝9時から朝食。鶯がさえずり、雨が上がり晴れた竹林を抜ける早春の風が心地よい。もちろん昨日と同じ仲居さんが担当だ。

しいたけ 田楽など
1)「椎茸と油揚げの焼き物」
2)「田楽、おひたし、わさび漬け」

蜆味噌汁 出汁巻き玉子
3)「蜆の味噌汁」
4)「出汁巻き玉子」あさば名物。出汁と玉子が1:1で調理される。もちろん美味しい。

焼き魚 竹の子
5)「焼き魚」
6)「竹の子とわかめ」

スイカとハッサク お汁粉
7)「スイカとハッサク」
8)「おしるこ」

 チェックアウトの会計後もサロンでコーヒーなど頂くことができる。その後他の部屋を見学させてもらい、いよいよ帰る時に、心付けの領収書と黒豆のチョコレートをお礼にもらった。

 非日常的幽玄の景色、清潔さ、さりげないおもてなし、素朴で美味しい食事。西洋的美意識と対極にある日本の美。豪華絢爛でなくても、心地よい品格が一流の証であることを再認識した宿泊であった。

宿泊代:夕食1回、朝食1回、2名1室(天鼓の部屋)121,800円
満足度:星5

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2015/09/29 (Tue) 13:30 | REPLY |   

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